日常清掃事業の経営分析

 

たてものサービス(さいたま市)は、
契約にない「ひと手間」を、可能な限り引き受ける。
月商は4000万円を超え、従業員の給与と待遇は業界水準を上回る。
営業担当を置かずウェブ反響と既存顧客の紹介だけで年15%ペースの成長を維持する経営手法とは。

仕事の価値 社員に伝える

賃貸経営における日常清掃は、物件価値と入居者満足度を左右する重要な要素だが、清掃業務が重視されることは少ない。
「管理会社の花形業務は資産コンサルティングや仲介営業。 清掃は『誰でもできる仕事』として社内の評価が低い場合が多い。
清掃スタッフ自身が自分の仕事に価値を感じているか、仕事と割り切っているのかの違いが、品質に明らかな差を生む。
社会に対して良い影響を及ぼしていると認識して清掃業務に当たれていることが当社の強み」と鈴木範之社長は話す。

徹底したカスタマイズ戦略が特徴だ。
物件の状態や要望に応じて、見積もり・作業内容を都度変更し、仕様外の依頼にも可能な限り応じる。
例えば、電球交換や蜘蛛の巣除去が契約に含まれていない場合も、現場で目につけば対応する。「あるお客様から以前の清掃会社に玄関上の蜘蛛の巣を取って欲しいと依頼したところ『それは仕様に入っていない』と断られたと聞いた。当社は気づいたら可能な限り対応する」(鈴木社長)

1階と5階異なる清掃方法

小さな手間も数が増えれば収益を圧迫する。そのため効率化の努力は不可欠だ。その一つが物件ごとの標準時間の設定だ。何分くらいかかりそうか、初回の現場でベテランスタッフが細かく予測し作業仕様書に記載する。作業配分にも工夫がある。「5階建ての建物なら各階に同じ時間をかけるのは非効率。1階は外部からの土砂や風が入り込みやすく共用部の利用頻度も高く汚れやすい。一方、最上階へ行く人は限られている。下層階ほど手厚く時間配分するのが基本」(鈴木社長)

清掃の専門性を高めるため、独自の資格制度を設け、分厚いマニュアルも整備する。
自己満足型の清掃に陥らないよう指導することも重要だ。
「シャワーで水を流す清掃は誰にとっても気持ちが良い。だがホースをつなぐ、片付けるのに時間がかかる。床だけきれいでも蜘蛛の巣が取られていない、ゴミ集めをしていない、では意味がない。
限られた時間でやるべきことをやらず自分が気持ち良いことだけをやったのでは、業務を遂行したことにはならない」(鈴木社長)

見回り点検と報告を清掃業務と同列で提供するのも特徴だ。
「管理人的視点を持っていれば異常に気づきやすい。建物の状況は写真とコメント付きで、ほぼ 翌日に、遅くとも3営業日内には報告している」(鈴木社長)

顧客数は1500人 大口顧客を回避

経営面では2007年の創業時から「お客様、働く仲間、家族の笑顔を同時に実現する」ことを理念として掲げ、大口顧客への依存を避けている。

「大口契約が増えると受け身になりがち。やりたくないのに今回はやりますと言ってしまう関係も良くない」(鈴木社長)

契約物件は3000件、顧客数は1,500人いる。物件や取引先が多種多様なため、クレーム対応は 月10件程度発生する。そのうち、要因が自社にあるものが半分程度を占める。だが 顧客を多数抱えることで、経営の安定と自主性を保てている。「理念を軸にお客様、従業員、 従業員の家族を守る。そのバランスを取り続けた結果が成長につながっていると思う」(鈴木社長)

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